【1級FP監修】ドラッグロスとは?患者申出療養と自由診療特約|2026年版

医薬品イメージ

がんや希少疾病などの治療薬は世界で次々と開発されています。

一方、海外では承認されているのに、日本では開発や承認申請が進まず、患者が利用できない「ドラッグ・ロス」や、利用できるまでに時間がかかる「ドラッグ・ラグ」が問題となっています。

さらに2026年8月、米国政府はアステラス製薬、協和キリンなど9社と、他の先進国の価格水準を踏まえて米国の薬価を引き下げる「最恵国待遇(MFN)価格」に関する合意を発表しました。

これにより、日本で米国より相対的に低い薬価が設定された場合、それが米国の価格や製薬会社の収益に影響し、企業が日本での新薬発売を遅らせたり、見送ったりするのではないかとの懸念が強まっています。

ただし、MFNによって日本での発売遅延や中止がすでに起きたと確定したわけではありません。薬価だけでなく、薬事制度、治験環境、患者数、国内拠点の有無など、複数の要因を分けて考える必要があります。

【結論】ドラッグ・ロスへの備えは「情報」「制度」「お金」の3つ

  • 米国のMFN価格政策は、日本への新薬導入を慎重にさせるリスクの一つですが、ドラッグ・ロスの発生が確定したわけではありません。
  • 未承認薬や適応外薬を希望するときは、まず標準治療を確認したうえで、治験、拡大治験、患者申出療養を利用できる可能性について、主治医や専門医へ相談します。
  • 患者申出療養でも、未承認薬など保険外の部分は原則自己負担で、高額療養費の対象外です。
  • 民間保険の自由診療特約は選択肢の一つですが、すべての未承認薬や自由診療を保障するものではありません。
  • 医療費だけでなく、収入減少、通院交通費、宿泊費、家族の生活費まで含め、預貯金と保険を組み合わせて備えることが大切です。
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ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロス、未承認薬、適応外薬の違い

用語意味
ドラッグ・ラグ海外で使える新薬が、日本で承認・保険適用されるまでに時間差がある状態
ドラッグ・ロス海外で承認された薬が日本で開発・申請されず、将来も利用できないおそれがある状態
国内未承認薬海外では承認されていても、日本では医薬品として承認されていない薬
適応外薬日本で薬としては承認されているものの、対象疾患、用法・用量などが承認範囲外となる使い方

日本のドラッグ・ロスはどの程度ある?

厚生労働省が2026年4月に公表した最新の調査では、2021年1月~2023年3月に欧米で承認された医薬品のうち、2025年3月末時点で国内開発が未着手だったものは28品目でした。このうち、調査上の分類で必要性が特に高い「A」が5品目、必要性が高くエビデンスが十分な「B1」が1品目で、計6品目が今後の正式な医療上の必要性評価の候補とされています。

一次情報 公式サイト 厚生労働省「第2回ドラッグ・ロスの実態調査」

一方、これまで広く引用されてきた「86品目」は、2016~2020年に欧米で承認された新有効成分を2022~2023年時点で追跡した別の調査です。2025年3月の整理では、必要性が「特に高い」14品目、「高い」41品目、「低い」11品目、「ない」12品目、整理上「解消」8品目と分類されました。「解消」には海外での承認撤回なども含まれるため、すべてが日本で承認されたという意味ではありません。一次情報 公式サイト 厚生労働省「ドラッグ・ロスの実態調査と解決手段の構築」整理結果

28品目と86品目は、対象期間と追跡時点が異なるため、足したり、単純に「58品目減った」と比較したりすることはできません。数字を見るときは、どの期間の薬を、いつの時点で調べたものかを確認する必要があります。

【最新動向】米政府が製薬9社との薬価合意を発表

2026年8月31日、米国政府は、アステラス製薬、協和キリン、アルコン、ビーワン・メディシンズ、ブリッジバイオ、CSL、サンファーマ、テバ、UCBの9社について、MFN価格に関する合意を発表しました。

ただし、テバは同日の自社発表で、合意を目指して米国政府と協議中だと説明しています。

米国政府によると、今回の9社を含めた合意企業は合計26社となり、米国のブランド医薬品市場の89%をカバーするとしています。また、9社が米国内の医薬品製造に合計196億ドル以上を投資する見込みだと説明しています。

合意では、各州の低所得者向け公的医療保険「メディケイド」が対象薬をMFN価格で利用できる枠組みや、今後発売する新薬について他の先進国の価格水準を踏まえた価格設定が示されています。いずれも米国政府側の発表であり、89%の算定方法や個別の投資時期は公表されていません。

アステラス製薬も、メディケイド向け医薬品の価格を引き下げ、今後上市する医薬品について他の先進国の価格水準を踏まえて価格を設定すると公表しました。

協和キリンは、対象薬を割引価格でメディケイドに提供するGENEROUSモデルへの参加と、対象となる新製品を他の先進国にも「より均衡の取れた価格体系」で発売する方針を公表しました。

なぜ米国の薬価引き下げが日本のドラッグ・ロスにつながると懸念されるのか

懸念は、次のような流れです。

  1. 日本で新薬を発売すると、米国より低い薬価が設定されることがある。
  2. 日本で発売した後も、薬価改定や市場拡大再算定によって薬価が引き下げられる場合がある。
  3. 米国が日本を含む他の先進国の低い価格を参照すると、米国での価格や製薬会社の収益にも影響する可能性がある。
  4. 製薬会社が米国での収益低下を避けるため、低い価格が先に付く国での発売時期を遅らせたり、発売を見送ったりする可能性がある。
  5. その結果、日本のドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが悪化するおそれがある。

厚生労働省も令和8年度薬価制度改革の資料で、MFN政策により製薬会社が日本への新薬導入に慎重になり、ドラッグ・ロスにつながる「リスクがあるとの意見」を紹介し、革新的新薬の薬価のあり方を引き続き検討するとしています。つまり、国もリスクを認識していますが、現時点ではあくまで今後の影響を注視する段階です。

国内未承認薬と患者申出療養制度

国内未承認薬などを治療で使うと保険給付対象分も全額自己負担となりますが、患者申出療養制度では保険給付対象の分は保険適用ができ、未承認薬などは原則自己負担で保険診療と併用して、先進的な治療が受けられる制度です。

患者申請療養とは
患者申請療養説明

患者申出治療のパンフレット 出厚生労働省典HP

国内未承認薬の自己負担と民間保険のガン自由診療特約

ドラッグ・ロスは、単に「海外の薬が日本に入ってこない」という問題ではありません。患者の治療選択肢、国民皆保険の持続性、創薬への投資、製薬会社の国際的な価格戦略が複雑に関係しています。

米国のMFN価格政策によって、日本を含む参照国の価格が米国の価格に影響し、日本での新薬発売が遅れるとの懸念は無視できません。しかし、現時点で発売遅延や中止が確定したわけではなく、不安をあおるのではなく、制度と事実を分けて確認することが大切です。

そして、国内未承認薬または適用外薬は、原則自己負担です。
例えば、国内未承認薬で2023年米国FDA承認済みのカピバセルチブ capivaserti (がん種乳腺)1ヶ月(1サイクル/28日)あたりの薬剤費2,750,640円や2023年米国FDA承認済みのイボシデニブ ivosidenib(がん種血液)1ヶ月(1サイクル/28日)あたりの薬剤費3,978,511円と非常に高額です。※2023年11月時点

その際に備えることができるのは、民間保険会社の自由診療特約です。

まだ、保険会社数社からしか発売されていませんが特約保険料500円程度で通算限度支払金額1億円となっています。しかし、特約保険料は500円程度と少額ですが、医療保険やガン保険の基本契約に保険料が発生するため保険料全体で月額1,500円~3,000円になる場合が多いです。

なお、「先進医療特約」と「自由診療特約」は別の保障です。先進医療特約は、厚生労働大臣が定める先進医療を、定められた医療機関・適応症で受けた場合などに対象が限られ、未承認薬や自由診療を広く保障するものではありません。

また、がんと診断された後や治療中は、新たな保険への加入が難しい場合があります。健康なうちに、現在の契約内容と不足する保障を確認しておくことが大切です。

消費者が国内未承認薬を使用することで、社会保険制度でカバーされない部分の経済的損失を、今ある資産や資産形成で資産を増やしたり、民間保険商品で補うという考え方は大切です。

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佐久眞 盛春の顔写真
執筆・監修: 佐久眞 盛春 (CFP®/1級FP技能士)
Private Fp 合同会社 代表社員。NISA・iDeCoなどの資産運用、生命保険見直し、家計改善、ローン相談のFP実務支援、キャリアコンサルティングが専門。 プロフィールCFP®情報

作成方法:一次情報(法令・公的統計)を確認のうえ執筆。生成AIは草案作成・表現整理に限定し、最終チェックは人手で実施。内容は執筆時点の情報であり、投資勧誘・個別推奨ではありません。

Q&A よくある質問

国内未承認薬を使うと、医療費はすべて自己負担ですか?

制度を使わず保険診療と保険外診療を併用すると、一連の診療が原則として全額自己負担となる可能性があります。一方、患者申出療養など保険外併用療養費制度の対象になれば、通常の保険診療と共通する部分には公的医療保険を使えます。ただし、未承認薬など保険外部分は自己負担です。

患者申出療養を申し出れば、希望する薬を必ず使えますか?

いいえ。安全性・有効性、患者の状態、既存の治験の有無、実施体制などが確認され、臨床研究として実施できる場合に限られます。まずは主治医や臨床研究中核病院へ相談します。

先進医療特約があれば、未承認薬の治療費も保障されますか?

原則として別です。先進医療特約は、治療を受けた時点で厚生労働大臣が定める先進医療に該当し、所定の要件を満たした場合に対象となります。未承認薬や自由診療への備えは、自由診療特約など別の保障内容を確認してください。

病気になってから自由診療特約へ加入できますか?

病歴、検査結果、治療状況などによっては加入できない場合や、条件が付く場合があります。また、がん保障には一般に責任開始までの待機期間が設けられる商品があります。加入の可否や保障開始日は、各保険会社の商品内容と引受判断を確認してください。

税制・法律・制度の取扱いについての記述は、発信時の関係法令等に基づき記載したものです。今後、変更の場合もあります。

一次情報 公式サイト 国立がん研究センターホームページ 

一次情報 公式サイト 厚生労働省ホームページ 患者申出診療制度

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