【1級FP監修】「相続時精算課税」と「暦年課税」はどちらを選ぶ?

2026年版・生前贈与で失敗しないための判断ポイント
親や祖父母から子・孫へ財産を移す方法として、よく比較されるのが「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」です。
2024年1月からは、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が設けられました。
一方、暦年課税制度では、相続前に受けた贈与を相続財産へ加算する期間が、経過措置を経て3年から7年へ延長されます。
この改正によって、
毎年110万円なら暦年課税
まとまった贈与なら相続時精算課税
という単純な分け方では判断できなくなりました。
【結論】どちらが有利かは「贈与税」だけでは決めず、贈与財産の種類や状況や環境によって使い分ける。
相続時精算課税と暦年課税のどちらが有利かは、贈与する金額だけでは決まりません。
一般的には、次のように考えられます。
相続時精算課税が選択肢になりやすいケース
- 住宅購入、事業資金など、まとまった資金を早く移したい
- 受贈者が将来、贈与者の財産を相続する予定である
- 相続までの期間が短く、暦年贈与が相続財産へ加算される可能性が高い
- 贈与財産を加えても、相続税の基礎控除以内に収まりそうである
- 将来値上がりする可能性のある財産を早めに移したい
暦年課税が選択肢になりやすいケース
- 早い時期から長期間にわたり贈与できる
- 受贈者が贈与者の相続で財産を取得しない予定である
- 贈与額や贈与先を毎年柔軟に変更したい
- 相続時精算課税の対象にならない人へ贈与したい
- 一度選択した制度に固定されることを避けたい
最終的には、贈与者の総資産、法定相続人の人数、贈与後の財産価値、受贈者が相続財産を取得するかどうかまで含めた比較が必要です。
暦年課税と相続時精算課税の比較
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 利用できる人 | 原則として制限なし | 原則、60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫などへの贈与 |
| 年間基礎控除 | 受贈者1人につき年間合計110万円 | 受贈者1人につき年間合計110万円 |
| 追加の控除 | なし | 贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除 |
| 贈与税率 | 10%から55%の累進税率 | 控除後の残額に一律20% |
| 相続時の取扱い | 加算対象期間内の贈与を加算 | 原則として、選択後の贈与を贈与時の価額で加算 |
| 年間110万円部分 | 加算対象期間内なら相続時に加算されることがある | 2024年以後の贈与分は原則として相続時にも加算されない |
| 制度の変更 | 毎年の贈与額や贈与先を変更できる | 同じ贈与者について一度選択すると暦年課税へ戻せない |
| 贈与税額控除 | 相続税から控除できるが、控除しきれない額は還付されない | 相続税から控除でき、控除しきれない額は申告により還付される |
| 主な手続 | 年間贈与額が110万円を超える場合などに申告 | 初回は相続時精算課税選択届出書が必要 |
相続時精算課税は、原則として、贈与年の1月1日時点で60歳以上の父母・祖父母などから、同日時点で18歳以上の子・孫などへ贈与する場合に選択できます。
制度は贈与者ごとに選択できますが、一度選ぶと、その贈与者からの以後の贈与について暦年課税へ戻すことはできません。
暦年課税制度とは
暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与を合計し、年間110万円を差し引いた残額に贈与税が課税されます。
年間110万円は「贈与者ごと」ではなく、「受贈者ごと」つまり、受け取る方です。
例えば、同じ年に父から80万円、母から80万円を受け取った場合は、合計160万円から110万円を差し引いた50万円が贈与税の課税対象になります。
18歳以上の子・孫が、父母・祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合は「特例税率」が適用され、基礎控除後の金額に応じて10%から55%の税率で計算します。
暦年課税の注意点|相続前贈与の加算
暦年課税で贈与税がかからなかった財産でも、贈与者が亡くなり、受贈者が相続や遺贈などで財産を取得した場合には、一定期間内の贈与財産が相続税の課税価格へ加算されます。
年間110万円以下で贈与税の申告をしていない贈与も、加算対象期間内であれば原則として加算されます。
相続開始日ごとの加算対象期間
| 相続開始日 | 加算対象期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日から2030年12月31日 | 2024年1月1日から相続開始日まで |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 |
相続開始前3年を超える部分が加算対象に含まれる場合、その延長された期間に受けた贈与については、贈与額の合計から総額100万円までが加算対象外となります。
この100万円は「1年につき100万円」ではなく、延長された期間全体で合計100万円です。
なお、暦年課税の相続前贈与加算は、原則として、被相続人から相続・遺贈や死亡保険金などにより財産を取得した人が対象です。
例えば、祖父母から暦年贈与を受けた孫が、その祖父母の相続で財産を一切取得しない場合には、原則として生前贈与加算の対象になりません。
ただし、遺言による財産や死亡保険金を受け取った場合などは、加算対象になる可能性があります。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税では、2024年以後、毎年110万円の基礎控除に加えて、贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除を利用できます。
控除後の残額には、一律20%の贈与税が課税されます。ただし、2,500万円は、相続税まで含めた「完全な非課税枠」ではありません。
贈与時には贈与税を抑えられますが、贈与者が亡くなったときには、原則として、各年の贈与額から年間110万円を差し引いた残額を、贈与時の価額で相続財産へ加算します。
相続時精算課税の基本計算
その年の贈与額
-相続時精算課税の年間基礎控除110万円
-2,500万円の特別控除の残額
=贈与税の課税対象額
贈与税の課税対象額×20%
=贈与税額
2,500万円の特別控除は贈与者ごとに設けられますが、年間110万円の基礎控除は、受贈者1人につき合計110万円です。
例えば、父と母の両方について相続時精算課税を選択し、同じ年に両親から贈与を受けた場合、父110万円、母110万円の合計220万円を控除できるわけではありません。
合計110万円を、父と母からの贈与額に応じて按分します。また、2,500万円の特別控除を利用するためには、原則として期限内の贈与税申告が必要です。
初めて選択するときは届出が必要
相続時精算課税を初めて選択する場合は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、「相続時精算課税選択届出書」と戸籍謄本などの必要書類を提出します。
最初の贈与額が110万円以下で贈与税申告が不要な場合でも、制度を選択するための届出書は提出しなければなりません。
一度選択した後は、その贈与者からの年間贈与額が110万円以下で、ほかに申告が必要な事情がなければ、原則として毎年の贈与税申告は不要です。
具体例1|毎年110万円、10年を贈与する場合
親から子へ、毎年110万円を10年間贈与するケースを考えてみましょう。
相続時精算課税を選択した場合
2024年以後の贈与であれば、毎年110万円までの部分は贈与税がかからず、原則として親の相続時にも加算されません。
10年間で合計1,100万円を贈与しても、各年の贈与額が110万円以内であれば、相続時精算課税による相続財産への加算額は原則0円です。
ただし、最初の年に相続時精算課税選択届出書を提出しなければならず、その後、同じ親からの贈与を暦年課税へ戻すことはできません。
暦年課税の場合
毎年110万円以内であれば、その年の贈与税はかかりません。しかし、親が亡くなった場合には、加算対象期間内の贈与が相続財産へ加算される可能性があります。
贈与から相続まで十分な期間があり、贈与が加算対象期間から外れれば、相続財産には加算されません。
比較のポイント
将来、子が親の相続財産を取得する予定で、相続までの期間が短い場合には、年間110万円部分が相続時にも加算されない相続時精算課税が有利になる可能性があります。
一方、相続まで十分な期間が見込まれ、将来の贈与方法を変更する可能性がある場合は、暦年課税の柔軟性が適していることもあります。
具体例2|2,000万円を一括贈与する場合
父から18歳以上の子へ、現金2,000万円を一括贈与するケースを考えてみます。
相続時精算課税を選択した場合
過去に2,500万円の特別控除を利用しておらず、期限内に必要な申告を行うものとします。
2,000万円-110万円-1,890万円
=贈与税の課税対象額0円
贈与時の贈与税は0円です。
ただし、父の相続時には、年間基礎控除後の1,890万円が相続財産へ加算されます。
2,500万円の特別控除の残額は610万円です。
暦年課税の場合
直系尊属から18歳以上の子への贈与として、特例税率を適用すると次のようになります。
2,000万円-110万円
=1,890万円
1,890万円×45%-265万円
=585万5,000円
贈与時に585万5,000円の贈与税が発生します。ただし、その後、加算対象期間内に父が亡くなり、この贈与が相続財産へ加算された場合には、対応する贈与税額を相続税から控除できます。
暦年課税分の贈与税は、相続税から控除しきれなくても還付されません。
一方、相続時精算課税分の贈与税は、控除しきれない場合に相続税申告によって還付を受けられます。
このため、贈与時の税額だけを見て「相続時精算課税が必ず有利」と判断することはできません。
父の総資産、法定相続人、相続税率、財産の分け方まで含めた比較が必要です。
相続時精算課税が選択肢になりやすいケース
1.まとまった資金を早く移したい
住宅購入資金、開業資金、事業承継資金などを早期に移したい場合、相続時精算課税を利用すれば、年間110万円と累計2,500万円の特別控除により、贈与時の税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、特別控除を利用した部分は、贈与者の相続時に原則として加算されます。
2.相続財産が基礎控除以内に収まりそう
相続税の基礎控除は、次の算式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除は4,800万円です。
相続時精算課税による贈与財産を加えても、正味の遺産額が基礎控除以内であれば、相続税がかからない可能性があります。
ただし、預貯金や不動産だけでなく、有価証券、死亡保険金、死亡退職金、過去の贈与なども含めて確認する必要があります。
3.相続までの期間が短い可能性がある
暦年課税では、相続前の一定期間内に行われた贈与が相続財産へ加算されます。
一方、相続時精算課税では、2024年以後の各年の贈与について、年間110万円部分は原則として相続財産へ加算されません。
将来、財産を相続する予定の子へ毎年贈与する場合には、相続時精算課税が有力な選択肢となることがあります。
4.将来値上がりする可能性のある財産を移したい
相続時精算課税で相続財産へ加算される金額は、原則として贈与時の価額です。
そのため、贈与後に株式などの価値が上昇した場合、値上がり部分を贈与者の相続財産から切り離せる可能性があります。
反対に、贈与後に値下がりしても、原則として贈与時の価額で加算されるため、不利になることがあります。
一定の土地・建物が災害によって被害を受けた場合には、例外的な調整措置があります。
暦年課税が選択肢になりやすいケース
1.早い時期から長期間にわたり贈与できる
贈与から相続まで十分な期間があり、贈与財産が相続前贈与の加算対象期間から外れれば、相続税の課税価格には加算されません。
相続時精算課税の場合は、年間110万円を超える部分について、贈与から何年経過しても原則として相続時に加算されます。
2.受贈者が相続財産を取得しない予定
例えば、祖父母から孫へ暦年贈与を行い、その孫が祖父母の相続で財産を取得しない場合、原則としてその暦年贈与は相続前贈与加算の対象になりません。
一方、孫が相続時精算課税を選択した場合は、孫がほかの相続財産を取得しなくても、年間110万円を超える相続時精算課税適用財産が相続税の計算に含まれます。
3.今後の贈与計画が決まっていない
相続時精算課税は、一度選択すると同じ贈与者について暦年課税へ戻せません。
今後の住宅購入、介護費用、家族関係、財産価格などがまだ確定していない場合は、制度を固定せず、暦年課税のまま贈与を検討する方法もあります。
選択前に知っておきたい重要な注意点
不動産は安易に生前贈与しない
土地や建物を生前贈与した場合、その財産が相続税の計算へ加算されたとしても、「相続または遺贈により取得した財産」ではないため、原則として小規模宅地等の特例を利用できません。
相続で取得すれば小規模宅地等の特例を利用できた土地を生前贈与すると、結果として税負担が増える可能性があります。
また、不動産の贈与では、贈与税や相続税以外にも、不動産取得税、登録免許税、司法書士費用などが発生します。
相続時精算課税の特別控除以内で贈与税が0円でも、不動産取得税がかからないわけではありません。
孫には相続税の2割加算がある
孫が祖父母から相続、遺贈または相続時精算課税による贈与で財産を取得した場合、原則として、その孫の相続税額には2割相当額が加算されます。
ただし、親がすでに亡くなっており、孫が代襲相続人となる場合などは対象外です。
そのため、
孫へ贈与すれば相続を一代飛ばせるので必ず有利
とは限りません。
「毎年贈与する契約」を一括で結ばない
毎年、その都度贈与契約を結び、各年の贈与額が110万円以下であれば、原則として贈与税はかかりません。
しかし、「今後10年間、毎年100万円を贈与する」と最初から契約している場合、契約した年に、10年間にわたり給付を受ける権利の贈与があったとして課税される可能性があります。
実務上は、毎年の贈与意思と受贈意思を確認し、贈与契約書、振込記録、受贈者による口座管理などを残しておくことが大切です。
贈与者の老後資金を残す
税負担を減らせたとしても、贈与者自身の生活費、医療費、介護費、住宅修繕費が不足しては本末転倒です。
贈与前には、平均寿命だけでなく、100歳程度までの生活費を想定し、十分な予備資金を確保しておくことが重要です。
家族に合った資産管理や資産継承
2024年の制度改正によって、相続時精算課税には年間110万円の基礎控除が設けられ、以前より使いやすくなりました。
一方、暦年課税では、相続前贈与の加算対象期間が、経過措置を経て最大7年へ延長されます。
相続時精算課税は、まとまった資金を早く移したい場合、相続までの期間が短い場合、相続財産が基礎控除以内に収まりそうな場合などに適している可能性があります。
暦年課税は、長期間にわたり贈与できる場合、受贈者が相続財産を取得しない場合、今後の贈与方法を柔軟に変更したい場合などに適している可能性があります。
制度を選択する前に、少なくとも次の点を確認しましょう。
- 贈与者の現在の総資産
- 将来の相続財産の見込額
- 法定相続人の人数
- 受贈者が相続財産を取得する予定の有無
- 贈与する財産の種類と将来価値
- 贈与者の老後資金と介護資金
- ほかの相続人との公平性
PrivateFpでは、贈与税だけでなく、将来の相続税、老後資金、介護費用、家族への財産配分を含めて整理し、贈与を行う場合と行わない場合のライフプランを比較します。
税金を減らすことだけを目的にするのではなく、贈与者が安心して生活でき、家族間のトラブルを防げる資産承継を考えることが大切です。
ファイナンシャルプランナーと各専門家が役割を分担することで、相続税だけでなく、相続後の生活や資産管理まで含めた総合的な対策が可能になります。
相談者に合った「最適解」を一緒に検討、お気軽に相談ください。
Q&A よくある質問
-
毎年110万円を贈与するなら、相続時精算課税の方が有利ですか?
-
将来、受贈者が贈与者の相続財産を取得する予定で、贈与が相続前の加算対象期間に入る可能性が高い場合は、相続時精算課税が有利になることがあります。
ただし、一度選択すると暦年課税へ戻れません。今後、110万円を超える贈与や不動産贈与を行う可能性も含めて判断する必要があります。
-
2,500万円までは完全に非課税ですか?
-
完全な非課税ではありません。2,500万円は贈与時の「特別控除」です。贈与者の相続時には、年間110万円を除いた相続時精算課税適用財産を相続財産へ加算して相続税を計算します。
-
父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税にできますか?
-
可能です。相続時精算課税は贈与者ごとに選択するため、父からの贈与だけ相続時精算課税を選択し、母からの贈与は暦年課税のままにできます。
この場合、父からの相続時精算課税に係る年間110万円と、母からの暦年課税に係る年間110万円は、別々に適用できます。一方、父と母の両方について相続時精算課税を選択した場合、相続時精算課税の年間基礎控除は合計110万円であり、父母それぞれに110万円ではありません。
-
相続時精算課税を選んだ後、暦年課税へ戻せますか?
-
戻せません。
一度選択すると、その贈与者から受ける以後の贈与は、すべて相続時精算課税の対象になります。
-
年間110万円以下なら、届出も申告も不要ですか?
-
暦年課税で年間贈与額が110万円以下であれば、原則として贈与税申告は不要です。相続時精算課税を初めて選択する年は、贈与額が110万円以下でも、相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。選択後の年については、その贈与者からの年間贈与額が110万円以下で、ほかに申告が必要な事情がなければ、原則として申告は不要です。
税制・法律・制度の取扱いについての記述は、発信時の関係法令等に基づき記載したものです。今後、変更の場合もあります。
一次情報 公式サイト 国税庁ホームページ 相続税
一次情報 公式サイト 国税庁ホームページ No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
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